「死んどる?」
倒れた若者をのぞき込む大男
周りには数人の、仲間と思しき者たちがいる
若者に息はあるようだが
「モリトニオ 急ごう
公演の準備がある」
と一人が言う
しかし、シルクハットにメガネ、ヒゲの老人が
「少年
喋れるかい…」
目を輝かせながらたずねた
「私『モリトニオ』旅芸人
キミは?」
「…
−−−ヒソカ」
享楽の都・グラムガスランド
ヨルビアン大陸北部、ヨークシンシティの北東に位置するこの都市は
元は赤土の山岳が連なる、貧しい土地であった
移民部族「グラム・キャラバン」が、山岳に発生する貴重な天然ガス資源を発見
キャラバンは何世代も続いた、移住生活をやめ、そこへ定住する
キャラバンが定住したその土地は、グラムガスランドと名付けられ、
やがて天然ガスを求める者たちが殺到
ガスが枯渇した後、資源の管理事業で巨万の富を得たグラム一族が
次に手がけたのは「カジノ経営」だった
カジノはホテルに併設され
さらに集客のため各ホテルではさまざまなショーが行われた
各ホテルは競うようにして優秀な大道芸人やマジシャン、パフォーマーをもとめた
その結果、ショービジネスはガスランドの代表的な産業活動となった
モリトニオたちは、有名で人気のある一座のようだ
ジャグリング、重量挙げ、火吹き、縄跳びをしながらの綱渡り…
観客たちが歓声が響く
それをヒソカは遠くの建物の高層階から眺めている
モリトニオが出てきた
「空水泳(そらすいえい)っ 空水泳っ」
観客がコールをする
モリトニオは屈伸をしたかと思うと、スィ〜と空中へ浮かび上がる
そのまま壁を歩いて登り、天井に逆さになって立ってしまった
一気に湧き上がる歓声、ショーは大成功だ
「アキバ」
そう呼ばれた少女が洗濯物をしている
モリトニオ一座のメンバーらしき女性が、次は市長の前で公演だから忙しくなる、と声をかける
アキバは一座の下っ端らしく、洗濯物の追加やビラづくりを頼まれてしまう
「もー私だって練習あるのに…」
「やあ」
現れたのはヒソカだ
「−−−反対だぜトニオ」
素性も分からないスラムのガキを拾うのは一座にとってよくない、そう言う一座の大男
どうやらヒソカの事のようだ
モリトニオは、自分自身スリ師だった、ボリゾイ(一座の大男)も便所住まいだった、と
素性の悪い者の集まりだと説得する
ボリゾイも今回は特別だ、2ヶ月後には「ロイヤルグラム」に出ることが決まっている
名を上げる一世一代のチャンスだから、と引くつもりはない
モリトニオ「うしろ」
立っていたのはヒソカだ
「やあ さっきはすごかったね」
笑顔でそう言う
「ふん…」
ボリゾイはそう言って去っていく
モリトニオ「ヒソカくん
手品とか出来る?」
「−−−選んだカードは…
これかな?」
難なく手品を成功させるヒソカ
モリトニオが感心し、誰に習ったと聞くと
ヒソカは「母が器用な人だった」と答える
「座長っ!」
入ってきたのはアキバだ
稽古の時間を忘れている、と不満な顔で言う
「あちゃー すぐ行きます」
ヒソカの元を去る際にモリトニオが言い残す
「芸は身を助く」
「それ以外 身を助けず」
と
モリトニオ「『纏(てん)』が乱れてるよ アキバ」
アキバは纏を維持したまま、ヒソカがこのまま一座に残ることをみなが心配していると言う
それを遮るようにモリトニオは、行くあてのない者を追い出すことはできない、同世代だから仲良くしてあげるように、と
アキバ(仲良く…か)
ヒソカの方を見やると、ヒソカはトランプタワーを作り、崩していた
アキバ(一人ぼっちか…)
自分の過去と重ねるアキバ
ヒソカはそばにあったネジを口元に当て、不気味な笑みを浮かべている
モリトニオと街を歩くアキバ
アキバが目に付いた張り紙についてモリトニオにたずねる
張り紙は『百面ジョン・ドゥ』のものだった
ヨルビアンを騒がす連続殺人鬼で、被害者は一貫して『圧死』
ジョン・ドゥの由来は、ありふれた名前であり、架空の人物を示している
なぜなら被害者の状況から見て同一犯の犯行であるにもかかわらず
監視カメラに残る顔は全て違っているからだ
夜道は出歩かないようにと、モリトニオは付け加える
アキバたちが帰ると、一座は騒然としていた
キシタ(ジャグリング)が足を骨折してしまったようだ
ジャグリングはナシにしよう、とプログラム変更を決めるモリトニオ
すぐに準備を、と言いかけたとき
「僕が出ようか♠」