試合前の練習、
菅平、ムルワカ、倉井の三人は「はーっ」とため息をつく
その様子をじっと見つめる渡久地
フェンスの向こうから渡久地に声をかける者がいた
及川だ
まゆをハの字にしながら調子を尋ねると
「キツいね」
今日投げたら明日は投げられないと言う渡久地
今日は先発をする気らしい
及川は、この後どうする気だと続けて尋ねる
今回の契約は渡久地の明らかなミスだ
今のうちにオーナーと和解しないか、と
「和解?」
渡久地は全く意に介さない
なぜ何十億の勝ちをチャラにしなければならないのかと逆に尋ねる
及川は諦めたような表情で、
渡久地が出ない試合のレートを上げる、という彩川の作戦と
この作戦に対抗する手段はないことと説明する
「いずれにしろ君は…
間違いなく破綻する」
静かに聞いていた渡久地の目が鋭くなったかと思うと、突然彼は笑い出した
助言はありがたいが、及川は根本的な間違いをしていると
①オーナーの釣り上げたレートで一気に赤字に転落する
②それを避けるために渡久地が連投し、やがて体を壊す
「道はこの二つ−
…じゃない」
「もう一つ道はある」
「というわけでゲームは続行だ」
渡久地は不敵な笑みを浮かべ、理解できないでいる及川を置き去りにしてしまう
対イーグルス3戦目が始まる
先発は渡久地!
3連投である
歓声が響く
そして先発メンバーには菅平の名前も
彩川は案の定勝負はしない、レートは据え置きだ
連投地獄でもがき死ね、と恐ろしい表情で笑みをつくる
試合は2回、早くも渡久地の顔には大粒の汗が見える
なんとか3者凡退に抑えるものの、疲れは隠せない様子
解説者によれば今日の渡久地はコントロールに欠けているそうだ
攻守変わり、菅平がバッターボックスに向かう
菅平に観客の諦めた声が聞こえる
「くそっ…」
「いい加減いいトコロ見せないと…」
追い詰められている
絶好球…
…変化する…
…空振り三振
リカオンズはまだ無得点
渡久地は大きく息を吐く
顔中の汗から疲れが見て取れる
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4回裏、イーグルスの攻撃
試合は0-0、投手戦になった
打線の援護がなく、いつも以上にスタミナを消耗する渡久地
満塁のピンチはなんとか三振で切り抜ける
5回リカオンズの攻撃、2死満塁、
バッター菅平
…三振
6回のチャンスもつかめなかったリカオンズ
このまま無得点で試合が続くと思われた7回
児島が2ラン、均衡を破る
リカオンズ先制!
「ふーっ やれやれ…
やっと入ったか…」
渡久地はタオルを目にかけふんぞり返るような姿勢
しかしその姿にいつもの余裕は全くない
「俺はもういっぱいいっぱいだ
次の回から別のヤツに投げさせてくれ」
渡久地は6回までに四球を3つ与えていた
コントロールのいい渡久地としては多い数だ
降板は疲労が原因であることは明らかだと彩川の秘書は言う
それに満足気な彩川
「渡久地の破滅は
もうすぐそこだ」
渡久地に代わり出てきたピッチャーは
倉井
投げる前から顔は汗だくだ
緊張のあまりマウンドに向かう途中でコケてしまう
身体は震え、涙と鼻血を流し、情けない表情になっている
「本当に大丈夫なのかこの男−−−!?」